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駄文書き。amazarashi/歌詞考察/哲学/本や映画の感想/その他もろもろの雑感 について語ります。

amazarashi歌詞分析①「初雪」ここに居たくないならば進まなければならない

amazarashi歌詞分析について

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amazarashi1stミニアルバム「0.6」

 

作詞を趣味として活動する中で、自分の大きな課題に突き当たることが増えた。それは伝えたいこと、テーマ性が希薄だと言うこと。小手先ではなくて、自分の伝えたいことを込めるためにはどうすればいいのか、ここ最近ずっと悩んでいた。

 

その上でamazarashiを聞くと、曲一つ一つに込められたテーマ性がものすごく強固で、焦点が定まっていると改めて感じた。今までも楽曲を聴いた所感としてブログにまとめてきたけれど、一度しっかり全曲聞き直して、自分の中に落とし込みたい。そういう思いで久々に記事編集場面を開いている。

 

歌詞分析といえど、そんな大層な事は言えない。ただ、作詞を続けてきた上で感じ取れること、曲を聴いて素直に感じること、そういうことを備忘録として残していけたら良いと思う。

また、歌詞の推移を知るために、なるべく時系列順に書いていきたい。なので一番最初は、amazarashiとして初期に発売された「初雪」からスタートする。

 

 

 

初雪

発売日:2010/02/10

収録アルバム:「0.6」

テーマ性:前進

 

青森出身の秋田さんが書く歌詞には、冬のモチーフが多く含まれる。

・初雪

・真っ白な世界

・クリスマス

・コンビニ傘

・冬が来る前に

・カラス

・春待ち

ざっと思い出せるだけでもこれだけある。青森の原風景が、ひろむさんの心に強く残っているのだろう。

 

都会生まれの私にとって、雪は美しいイメージが強い。儚くて、珍しくて、純白である。美化されたそのイメージを、雪国生まれの友人達はよく笑う。積もったら雪かきをしないといけなくて面倒だし、寒いし、見慣れたものだから美しいという気持ちも強く感じないよ、と言う。初めてそれを聞いたとき、そのギャップに驚いたものだった。

 

 

1Aメロ

積もりだしたのは彼女の記憶と 感傷とわずかな後悔
長く伸びる僕の足跡も やがてそれに消されるだろう

 楽曲は青森駅に初雪が降り出す場面から始まる。青森の初雪は大体11月頃から見られるそうなので、この世界はそのあたりの時間なのだろう。

 

登場人物は僕と「彼女=君」。全体を通してみると、君という存在の喪失があったことがわかる。果たせなかった約束を彼女がぽつりとつぶやいている。今までの轍が、思い出や後悔にかき消されるような気がしているAメロ。

 

「記憶、感傷、後悔」といった感情が雪に喩えられている。それに足跡が消される、という描写から、「雪」というモチーフが無情の比喩になっているとわかる。

 

1Bメロ

思えば遠くへ来たもんだ いや と言うより振り出しに戻ったのか

それでもここに留まるよりは いくらかましだと信じてる

 

思えば遠くへ・・・という一文は、ほかの曲でも出てくる裏返しの表現が使われている。

自分以外皆死ねってのはもう死にてえってのと同義だ/しらふ

人間嫌いっていうより人間嫌われなのかもね/ジュブナイル

ここに居たくなってのと どこかに行きたいってのは

おんなじ意味なのかな なんにしろ歩こうか/夏を待っていました

僕以外、皆居なくなるかもな なら僕が消えたほうが早いか/たられば

こういう些細な表現から、主格が俯瞰的な人間であると感じてドキッとする。

 

「ここに居たくない」「息苦しい」という気持ちは生きづらい人の多くが感じたことのある気持ちだと思う。よく、「『死にたい』は言い換えれば全て放り出して誰も自分を知らない場所で好きな事だけしていたいということだ」と話す人がいるけれど、まさにそれに近い。ここに居たくないという気持ちは、前進したいからなのか消えてしまいたいからなのか分からないが、とにもかくにも歩かなければいけないのだ。いくらかましな場所に着くと信じて。

 

1サビ

初雪が風に吹かれて 僕らの街 通り過ぎただけ
君の優しさ風に吹かれて 僕の胸 通り過ぎただけ

 Aメロから、記憶や感傷というものが雪と対応していると読んだ。なので、サビに現れる思い出も雪にリンクしているはずだ。

ふるさとの重い雪が、自分の前進の邪魔をする。それを振りほどいてまで歩いて、一体どこへたどり着けるというのだろうか。

初雪も優しさも、ただの通行人だ。通過点だ。そうして振り切って、歩こうとする主格の小さな葛藤のようなものがここに表れていると思う。

 

2Aメロ

綺麗だなと思うより早く面倒くさいななんて一人ごちる
傘はないし 時間も無い ましてや期待なんてあるはずも無く
ただ向かうべき目的地と焦燥だけは捨てるほどある

面倒くさいと独り言ちる所で、「あっ!進研ゼミでやったところだ!」みたいな気持ちになった。「あっ!友人が言ってたセリフだ!」っていう。

冒頭でも言ったけれど、雪を見慣れた地域の人はそれを対処しなければならない面倒くささが先に来るんだね。

 

「傘」というワードも曲中でよく現れる。

コンビニ傘が土にも還らずゴミでも非ず モノでも非ず/コンビニ傘

「傘が無い」と口ずさむけど むしろ傘を買う金が無い/ラブソング

雨から身を守る手段がないということの象徴として、傘がキーワードになっていることは明白だ。

 

2Bメロ

ただ君がいなくなったことで出来た空白を埋められずに
白黒に見えるの街の景色決して雪のせいではないのでしょう 

 ヤバ。

悲壮感で視界がモノクロになるという表現はよくあるけど、雪と絡めて喪失感を表しているのすごい・・・・・。

 

 

2サビ

振りほどいて僕は急いで出かけなくちゃ

 ここでも、今のしがらみを振りほどいて進みたいという葛藤が繰り返されている。

 

Cメロ

全部嘘だと言い切れたら僕は簡単に歩けるのに
でも大丈夫ちゃんと前に進めているよ 

 こういう人間らしいことを、サラッと書くことが出来るのがamazarashiの好きなところです。

他の曲でも、

この世界に嘘しかないならこんなに楽な事はないよな
たまに本当がまざっているから面倒くさいけど信じてみるんだ/美しき思い出

こういう下りがある。どんなに悲しんでも裏切られても、信じてしまう人間臭さがリアルで好き。

 

ラスサビ

僕はそれに少し泣いただけ 冬の風に心揺れただけ

 ハア・・・。「苦しみや悲しみも通過点」的なメッセージを、こんなに優しく表現できるのすごすぎる。けして押しつけがましくないし、つじつまを合わせの言葉じゃない。だってまだ主格は通過点に出来ていないし、今なお足を進めようと奮闘している。

 

まとめ

ここに居ることが苦しいなら、思い出に後ろ髪を引かれても進まなくてはいけない。それは何も悲しいことではない。優しい思い出も、悲しかった気持ちも全部通行人であって、前進することで何かを失うわけじゃないんだよって言ってもらっている気持ちになる。

勝手な解釈だけれど、きっと秋田さんが上京して音楽活動をするにあたってたくさんの葛藤や衝動があって。それでも打破したい現実があって、そういう前進が積み重なったうえで今があるんだろうなと思う。

自分の中で(他と相対して)よく聴く方の曲ではなかったけれど、改めて聞き直すと本当に重みのある歌詞だと感じたし、素敵だった。

②では「少年少女」について書いていきたいと思います。長々と読んでくださった方有難うございました!